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カンティーナ訪問記-エディ・カンテEdi Kante

これまではタイトルの通りピエモンテとカンパーニャを中心に書いてきたが、この辺で他の州にも目を向けたいと思う。そこで、これから何本かはフリウリものを。

フリウリ州は正式名称をフリウリ・ヴェネツィア・ジューリアFriuli Venezia Giuliaと言うが、フリウリの人に聞いてもなぜ現在は全く関係がない「ヴェネツィア」や「ジューリア」(ジュリアス・シーザー由来)が付いているのかよくわからない、と言う。この地方、長い間ヴェネツィア共和国の領土だったのは間違いないのだが、ヴェネツィアの町自体はヴェネトVeneto州だし、とりあえずご近所の有名地の名前をくっつけたのでは?と邪推もしたくなる。

それはさておき、この州はアルト・アディジェAlto Adigeと並びイタリアで最高の白ワインの産地である。品種も白ではフリウラーノFriulano(もともとはトカイ・フリウラーノTocai Friulanoだったが、ハンガリーのトカイとの名称使用権争いに敗れ、昨年からただの「フリウラーノ」に)、リボッラ・ジャラRibolla Gialla、ピコリットPicolit、ヴィトフスカVitovskaなど、赤ではレフォスコRefosco、タッツェレンゲTazzelenghe、スキオペッティーノSchiopettino、ピニョーロPignoloなどといったフリウリ以外では殆ど栽培されていない個性的な地場品種があり、マニア心をくすぐる産地である。更に特筆すべきは、「変態白ワイン」と呼びたくなるような個性的な作りの白が存在すること。こういったワインはゴリツィアGoriziaの町周囲に広がりスロヴェニアと国境を接するコッリオCollioの作り手のものが多く、その象徴的存在が数年前アエラでも紹介されたゴリツィア近郊のオスラヴィエOslavjeを本拠とするヨスコ・グラヴネルJosko Gravner。彼は近隣の生産者に多大な影響を与えており、彼を中心に「オスラヴィエ変態軍団」が形成された、と言っても過言ではない。この「変態」達、はやりの言葉を使えば「自然派」であり、農薬やSO2を極力使わずに自然な栽培、醸造を行うこと、白ワインなのにマセラシオンを行っているものが多いことなどが特徴である。

この流れだとグラヴネルを最初に取り上げるのが自然なのだが、敢えて別の作り手からスタートしよう。エディ・カンテEdi Kante。カルソCarso地区のドュイーノ・アウリジーナDuino Aurisinaの生産者である。カルソはイタリア東端の町トリエステTriesteに程近い、アドリア海に面したエリア。カルソはドイツ語だと「カルスト」つまり石灰岩台地。小さな生産地で恐らく生産者の数は10程度と思われる。

カンテの名前は何となく知っていたのだが、日本ではまず手に入らないし、飲んだこともなかった。最初のフリウリ訪問時(2005年4月)にも全く接点がなかったのだが、この時フリウリの後に訪れたピエモンテでの「事件」が認識を変える。最終日の夜、グイドGuidoという有名リストランテで食事していたとき、隣のテーブルにワイン雑誌で見たことのある濃~いオッサンがいる。バローロ・ボーイズ第一世代の代表選手ドメニコ・クレリコDomenico Clericoである。お店の人に確認したら、やはりそうだった。この後のこのお兄さんの動きが素早かった。いきなりクレリコのテーブルに行き、何か話している。話し終わった途端、クレリコが我々のテーブルにやって来た。そして仲間の一人シゲ君の首根っこを大きな手でぼこぼこ叩きながら「よう来た」とばかりに歓迎してくれ、食後には自分たちのテーブルに呼んでくれた。そこで何故かブラインド・テースティングに参加させられたのである!(誰も当たらなかったがそのワインはエリオ・アルターレのバローロ80年だった) ピエモンテの前はフリウリにいた、と言ったところ、彼は即座に尋ねた。「カンテには行ったか?カンテはイタリア最高の白ワインの作り手だ。」と。

これがカンテとの出会いである。その年の9月にインプリチトで最良年しか作られないセレッツィオーネSelezioneシリーズのマルヴァジアを飲ませてもらった。強固なミネラルにスモーキーなニュアンス、これまで飲んだことがないような個性的なワイン。ますます興味をそそられた。こうなると行くしかない、ということで、翌春のイタリアツアーに組み込むことにしたのだが、いざアポを取ろうとするとこれがうまく行かない。メールの返信は3週間後にようやくあったが「訪問は受け入れていない」とのこと。これではどうしようもない。諦めた。

ところが、現地で思わぬ幸運が訪れたのである。我々のお気に入りのリストランテの一つCampielloでランチした際に顔なじみのオーナーにカンテのSelezioneをストックしているか尋ねてみたところ、「うちにはないけど、もし飲みたければアポを取ってやるから直接行って買って来い」との答。これに乗らない手はない。早速翌日夕方のアポを取ってもらう。

当日は朝から雨。昼はレ・ドゥエ・テッレLe Due Terreでランチをご馳走になり、その後も延々おしゃべりしていた関係で、またもや1時間以上遅刻。電話を入れると予想に反して流暢な英語でわかりやすい待ち合わせ場所を指定してくれた。そこに現れたのはエディの甥ゴランGolan君。なかなかのイケメンである。名前の通りカンテ家はスロヴェニア系。まずはカンティーナの見学から。これが凄い!石灰岩の岩盤を数年かかって15mほどくり抜いて建設したとのことである。確か地下4階か5階まであり、壁面を飾っているのはエディが自ら描いた現代画。これが歴代のSelezioneのエチケッタになっている。
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通常のラインを全部試飲させてもらったが、どれもカルソの強い石灰質土壌を反映した硬質でミネラル感溢れるもの。非常にドライで酸も強い。品種の個性以上に土地の個性が強いような気がした。Selezioneは試飲用はないが、若干在庫はあるとのことで、残っていたピノグリージョ、シャルドネ、マルヴァジアを購入(これ以外にもヴィトフスカとソーヴィニオンがある )。このSelezione、本当にレア物である。ネットでもエノテカでも扱っているのを見たことがない。唯一見たのはクレリコのプライベートセラー。恐らく日本にはほとんどないだろう。インプリチトのセラーでは見たことがあるが、もちろん非売品である。
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カンテはオスラヴィエのラディコンRadikonと一緒にボトルのネックサイズとワインの熟成の相関関係の研究も進めている。この結果生まれたのがオリジナルの500mlのボトル。ネックは細い。研究結果によると、このサイズがワインに一番適切な量の酸素をコルクを通して供給でき、また、年々質の良いコルクが少なくなり太い良質なコルクを作るのが難しくなっているので、そういう点でもネックの細いものの方が好都合だとのこと。ついでにスクリューキャップについての意見を聞いてみたが、すぐに飲むものならスクリューキャップでも良いが、熟成させることが前提であればやはりコルク、との答であった。

通常ラインの非常に硬質なキャラクターには好き嫌いが分かれると思うが、Selezioneの独特の個性やエチケッタの美しさは突出しており、フリウリ屈指のアーティスティックな作り手と呼んでもいいだろう。購入したSelezioneはまだ1本も飲んでいない。そろそろどれか試してみようかな。

(訪問:2006年4月)
by taurasista | 2008-02-22 13:48 | カンティーナ訪問